ブランドさくらんぼ



一軒家の軒先って感じの、
10数席の赤ちょうちん居酒屋さんから
聞こえてきた。


   「わたしはねぇ、
    佐藤錦なんてぇものは、何十年も
    食べたことなんてないんだけどねぇ、
    おたくは、食べたことありますか?」
 

ドアが開いていたのでチラ見すると、
だいぶご年配にみえる背広をきたおじさま。


もうすこし聞いてみたい気がしつつ通り過ぎたけど、
そうそう、そうだよね、知らなかったよ、
佐藤錦なんて!


自分は、仕事上の知り合いに
山形の旅館のおぼっちゃん、という人がいたから、
おすそわけしてもらってはじめて知った。


さくらんぼなんて美味しいものだと思ってなかったから、
それをいただいた時には、ちいさいのに
甘くてたっぷり楽しめる味わいに驚いたもんだ。


居酒屋の前を通りすぎる前に寄ったスーパーで、
ちょうどその佐藤錦がえらい特売だった。
なんとなく「高級品」のイメージがあったから、
束にしてペラペラのパックで安売りしているのをみても、
喜んで買う気にはならなかったんだよな。


そこにおじさまの発言があって、
その後にどういう会話が続いたのか知らないけれど、
同じスーパーのものから出てきた話題だったら
なんだかおもしろいなーと思ったり。


気になっていたから、耳に入ってきたのかもな、
と思ったり。


それでまたひとしきり買うか迷ったけれど、
あの、「すごい!」と思った感動が壊れると嫌だな、と
やっぱり「高級品」のままとっておくことにした。