日本の良心に触れる

ドアが開いて、車イスに乗った、軍服の、年配の方がみえた。
その軍服が、みょうにピカピカだったこともあって、
一瞬、「あ、昔を思いだして?」
・・・というような人かと、思った。


「お忙しいところ、ごていねいに、ありがとうございます。」
と、その人は、案内していた車掌さんに、
静かに、でも、はっきりと言った。


電車の中で、向かい合わせに座ることになった。



隣にいた人が声をかける。
「大将! 航空自衛隊?ですよね。☆3つはスゴイことですよ。」


軍服には、さまざまな勲章がいっぱい。
両肩には、それぞれ、☆が3つずつ、ついていた。
隣にいた人も、陸上だけど、自衛隊の人だった。
そのスゴイ軍服から進む話が、どうしたって聞こえてきて。


「言われたことをやってきただけですから。」
「わたしの頃には、飛行機はとても高くてね、
 飛行機を操縦したかっただけなんです。」


やや熱をもって話しかけるその陸の人に対して、
空の軍服の方は、たんたんと、でも、ひとつひとつ、
とてもていねいに、正確に、受け答えをしていた。
その姿を、真正面で感じ、じんじんしてきて、
とても惹かれてしまって、まさに釘付け状態だった。


「わたしはこんな格好をしていますけど、
 やっぱり戦争はねえ、やってはいけないことです。」


そこにまた、静かに、でもきっぱりと、
落ち着いたトーンでぽつり、軍服の方が言った。


知らず知らず背筋まで伸ばしていた自分の何かが
ついにいっぱいになって、目頭に、なぜか、あついものが。
ここしばらくずっと、出そうで出なかったものが。


その後も、その方達の会話はつづき・・・
いじわるなと~さんが、「か~さんみてごらん」とボウズに言うと、
あついものがあふれるのを止められなくなってしまったではないか。


とどめが、降りるときの、
「どうもおさわがせしちゃって、すみませんでしたね。」


頭を下げながら、言うんだもの。
目をやられていて、と、見えない様子だったんだけれど、
こちらのほうをまっすぐ見て、言うんだもの。
付き添いの方も、静かに、ボウズに手を振って頭を下げた。



あまりの美しさに、胸がいっぱいだった。
すべての所作が美しかった。
言葉も、道具のような使い方ではなくて、
その響きと、その方の在り方に、
少しも違いがなかった。
発するものすべてが、そのまま、その方そのものだった。
目の前にみえる、この地に根ざしたカラダと、
その奥にある本質、心や魂といったものに、
どこにも違和感を感じなかった。


表面的には控えめのようで、つつましく、静かだけれど、
その静けさの中にある、たんたんとした強さが、きれいだった。



ああ、こういう美しさに、長いこと、触れていなかった、
大好きな、日本の、美しいものの感じだ、と思った。
あの方みたいに在りたい、と、あこがれるような。


ちょっとしたプレゼントみたいな出来事。
自然に触れることも必要だったけれど、
やっぱり、美しい物に触れることも必要だったのね。
人生の大先輩である、ご年配の生身の人に、
いま一番触れたい感じの美しさを感じることができて、
感謝でいっぱいなひとときだったよ。