そんなひとになりたい
しかめつらで一瞥のご婦人、
落ち着いた調子で語りかけてくれたご婦人、
おなじぐらいのお年だったと思う。
グズり気味だった子、
後者のご婦人のひと声とまなざしで、
笑顔に戻った。
赤子を連れて行くのはちょっとどうかと思う場所、
悩んだ末、行ってみることにした。
連れて行くことに、自分と訪問先の人には、
意味があった。
まわりは知ったこっちゃないのだが。
急なグズり対策も想像して心の準備はしていた。
会場図もたしかめ、さっと用を済ませる予定だった。
が、予想外、目的を果たすのに並ばねば、という状況。
受付でいきなり子が声をあげはじめ、一瞬ひるむ。
そのまま並ぶのは無理だ。落ち着かせる場所もない。
いったん退散して外に出る。
スリングで野オッパイも頭に入れていたが、
それもできる状況じゃない。
もうひと息ついて、やりたくなかったお手洗い授乳を決めた。
隣の個室の音にビクッと反応する子をあやしながら、
なんとか落ち着くまで授乳する。
ここまできたのだから、戻ろう、とまたひと息いれ、
わがままにならないか目をつぶって考え、
並んでいる列に入った。
あとすこし、というところで、子が
“ っんぁああ ” と小さいが声をあげ、バタつく。
目立つ・・・
そこで、前列のご婦人、しかめ面。
ハイ、そうです、こんなところに赤子を連れてくるな、ですよね、、、
抱いている自分が動揺して子が落ち着くわけがない。
またひと呼吸入れてお腹のしたのほうに重心をおいて・・・
『ちょっとこわかったかな、、』とひとりごとのように
子にむかってつぶやきゆすりながら、
頭をなでて落ち着かせようとしていた。
そこで子の顔がみえた後列のご婦人、
『変な感じだものね、びっくりしたのね、
大丈夫よ、こわくない、いい子ね』
猫なで声でない、落ち着いた調子で、
子の目をみて、同じ目線でゆっくりと語りかけてくれた。
とたんに子に笑顔がもどる。
先輩に学ぶ、ありがたい瞬間だった。
おかげで自分も、もう一段ゆとりを持って
子を抱くことができ、無事に用を済ませ、
相手にも伝えることができた。
これぞ!
つぎにこういう機会があったら、
もっとビクつかずに子を連れて行けるだろう。
そして、逆の立場になったなら、
おなじような行動をとろうとするだろう。